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SAT電験3種講座 理論 質問回答(トランジスタの接地方式による挙動の違い)

質問1 接地箇所がエミッタ接地と変わらないのになんでコレクタ接地になるんですか?

トランジスタ増幅回路の接地方式は、交流の目線に立って考えます。

直流目線で考えると、「B~E間はPN接合で、ここに電流を流すと数百倍の電流がC~E間に流れる」というトランジスタ本体の働きはどの接地回路でも変わることはありません。このとき、

  1. B~E間に掛かる直流電圧に入力の交流電圧を重ねて流し、それに比例して大きくなったコレクタ電流の途中に抵抗を入れ、電流変化をC~E間の電圧変化に変えて取り出しているのがエミッタ接地
  2. B~E間に掛かる直流電圧に入力の交流電圧を重ねて流し、それに比例して大きくなったコレクタ電流の途中に抵抗を入れ、電流変化をC~B間の電圧変化に変えて取り出しているのがベース接地
  3. B~E間に掛かる直流電圧に入力の交流電圧を重ねて流し、それに比例して大きくなったコレクタ電流とベース電流が合わさって流れだしたエミッタ電流の途中に抵抗を入れ、電流変化をその抵抗両端の電圧変化として取り出しているのがコレクタ接地

ということになります。一見、見た目の回路はどれでも同じように見えても、交流目線(=コンデンサは短絡して考える)に立つという点がポイントです。

質問2 出力を取り出す部分に接地が近くにありますが接地近くは0Vと考えてもう片方の出力端子との電位差で考えればいいのですか?

そういう事になります。なお、回路中のどこが接地なのかを判断するためには、

  • 入力端子と出力端子が直接接続されているライン

が基準として接地されている部分、と考えて頂ければ判断できるかと思います。

確かに、いわゆるA種接地~D種接地のように、強電の世界で物理的に地面に接続されている接地は具体的に良く分かりやすいのですが、トランジスタ回路において接地と言っても物理的にアースされている訳ではないので、この辺が理解しにくい原因の一つとなっているのでしょうね。

質問3 コレクタ接地の出力電圧がなぜ入力と同じにになるのか、講義だけでは分かりませんでしたし、講義もいまいち理解できませんでした。

質問4 講義の説明でもありましたが、出力で電流をたくさん取り出しても変わらないとありましたが、意味が分かりませんでした。

では、回路図で解説します。

最初は、直流バイアスなどを取り除いた原理回路図を示そうと思ったのですが、かえって省略されている前提が多くなり分かりにくくなってしまったので、実際に動作する回路を設計して示しました。

この回路は、電源が10Vでベースには10kΩ2本で分圧した電圧を与えているので、B電圧が5Vになります。B~E間は半導体のPN接合となっているので、トランジスタが動作していれば常にほぼ0.6Vを保ちますから、Eの電圧は4.4Vです。

Eと接地の間には100Ωの抵抗を入れているので、この抵抗に流れる電流は4.4mAです。トランジスタの電流増幅率を1000倍と仮定すると、B~Eに流れる電流は4.4μAです。

厳密に考えると、ベースに接続されている上側の10kΩにはこの電流も重なって流れるので、Bの電位は5Vにはならないのですが、B~Eに流れる電流が小さいのでほぼ無視できると考えて5Vということにします。

さて、このとき、入力の交流電圧が入ったとします。すると、ベース電圧は5Vを中心にして入力電圧の分だけ上下に変化します。

当然、入力電圧が上昇すればB~Eに流れる電流も増加しますが、その増加した電流の1000倍の電流がC~Eに流れ、この電流によって100Ωの両端には電圧増加が起こります。

入力の交流が±1Vの変化をしたとすると、トランジスタのBに掛かる電圧は5V±1V、つまり4~6Vの間で振れます。したがって、このとき、100Ωの両端に発生する電圧は3.4~5.4Vの間で振れることになり、これをコンデンサで直流成分を取り除いて出力すれば、出力電圧は±1Vとなり、入力の電圧変化がそのまま出力の電圧変化となって出てくることが分かります。

さて、ここでもし、出力端子から外部に電流を取り出したとします。例えば10mAの交流電流を出力として取り出したとします。

ここで、B~Eに流れる電流と、その電流を1000倍した電流が一緒に100Ωの抵抗に流れるという点がポイントで、エミッタから10mAを取り出したとしても、B~Eに流れる電流はその1/1001倍、つまり9.9μAに過ぎません。その1000倍の電流をトランジスタが作り出してくれるので、入力の交流信号源から流れ出す電流はそれよりずっと小さくて済むわけです。

以上がコレクタ接地回路の動作で、まとめると

  • 出力の交流電圧=入力の交流電圧と同じ
  • 出力から電流をたくさん取り出しても、入力から流れ込む電流はそれよりずっと小さくて済む

という性質を持つため、電圧は増幅しないけど電流を大きくするという目的で使われています。

トランジスタ増幅回路例の図を使った説明で、直流と交流で働きを別けて説明している部分で、説明を省きすぎてまったく理解できませんでした。

SATは原理をしっかり説明して根本を理解していくというコンセプトなのに電験にはでないからと「なぜ」というところをとばしてイメージで説明してましたが逆にこんがらがりました。

今までも、電験にあまり出ないところの説明は最小限に留めていました。そこはすんなり理解できたのに今回の説明は意味が分かりませんでした。

講義資料で見せましたエミッタ接地増幅回路の回路図例かと思います。では、これも、実際に動作する回路例を挙げて説明します。

まず、電源電圧20Vからベースに9kΩと1kΩで分圧されているため、上の例と同じくB~Eに流れる微小な電流を無視して考えれば、Bの電圧はほぼ2Vになります。

ここからB~E間の0.6Vを引いて、E電圧は1.4Vです。

E~接地間には1.4kΩを入れたので、ここに流れる電流は1mAです。トランジスタの電流増幅率を1000倍と仮定すると、B~Eに流れる電流は1μAなので、9kΩ~1kΩと通して流れる電流2mAに比べて十分小さく無視できることが分かります。

Eに流れる電流が1mA、B~Eに流れる電流が1μAということは、トランジスタのC~Eに流れる電流は0.999mAです。電源とコレクタ間には10kΩの負荷抵抗を入れたので、この両端に発生する電圧は9.999Vとなり、ほぼ10Vと近似してしまいます。

すると、トランジスタのC端子は10Vの電圧ということになります。

さて、ここで入力から±0.1Vの電圧が入力されたとします。+0.1Vのとき、B端子の電圧は2.1Vとなるので、この時のE端子の電圧は0.6を引いて1.5Vです。

E端子が1.5Vとなると、エミッタ抵抗の1.4kΩに流れる電流は約1.071mAに増加します。

この増加した電流のうち、1000/1001はC~Eに流れる電流ですから、C~Eに流れる電流はほぼ1.07mAです。

コレクタに挿入した10kΩにこの電流が流れると、電圧降下は約10.7Vとなり、トランジスタのコレクタ電位は電源電圧からこれを引いて約9.3Vとなります。

以上より、+0.1Vの入力でコレクタ端子の電圧が-0.7V変化することが分かり、増幅度は約-7倍となります。上記の原理から、入力が+のとき出力はー、入力がーで出力が+になることもご理解いただけるかと思います。

なお、この原理を踏まえれば、エミッタ接地回路の電圧増幅度はコレクタに挿入した抵抗10kΩによる影響が大きいことも分かるかと思います。

エミッタ接地回路で増幅度を高く取りたいときは、電源電圧を高くしてコレクタ抵抗を大きくすれば良いことになります。